「タイプ41 犬伝説」
1皇帝が戦争して敵に勝てない
2そこで敵の頭を持ってきたものに娘をやると約束する
3犬が敵の首領を殺し、その頭を持ってくる。犬は娘を妻に求める
4娘に迫られて、皇帝は娘を与える
5娘は犬と一緒に山に行く
6二人の子どもたちは互に結婚し、一つの民族の祖となる

中国の西南部に住む少数民族ミャオ、ヤオ、ショオなどの始祖伝説。犬をトーテムとし、先祖は犬(盤瓠)と人間の娘の間に生まれたとする。訳出した話eとほぼ同じ話は今に伝わる(『中国民間故事集成』江西巻、湖南巻など)。日本の滝沢馬琴『南総里見八犬伝』の伏姫と八房の話もこの伝説に基づく。訳には中華書局版(一九七九)を使用し、『後漢書』「南蛮西南夷列伝」で補った。『民間文学論壇』一四「盤瓠神話与日本犬婿型故事的比較研究」郎桜、一九八五/『鐘敬文民間文学論集下』「盤瓠神話的考察」上海文芸出版社、一九八五。

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AT

通観212A【犬婿入り-始祖型】



『日本伝説大系』話型要約:一二 犬聟



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類似話型

通観212B【犬婿入り-仇討ち型】



『日本伝説大系』話型要約:一 赤犬子



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犬祖神話事例

文献

『捜神記』 犬祖神話



犬(1) 犬祖崇拝



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少数民族の犬祖神話

ミャオ族

苗族「神母狗父」

 

ヤオ族「盤王の伝説」







その他台湾にも事例あり。

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中国における異類婚型民族起源神話の代表格の一つ、「犬祖神話」。

文献では『後漢書』「南蛮西南夷列伝」や『捜神記』。民間伝承としてはやはりヤオ族に強いイメージ。ミャオ族には多くの民族起源神話がありますが、犬祖神話を採用しているのは湖南省や広西チワン自治区など東部のミャオ族に多いか?シェー族については手元に資料がありません。

『南総里見八犬伝』の八房と伏姫の話は確かにこの犬祖神話に基づいています。飼主里見義実が「敵将の首を取って来たら、姫と結婚させよう」と言ったこと、他の褒美を与えてごまかそうとした父に対して伏姫が君主の言の重さを説いて八房との結婚に同意した点など。
ただ八房が伏姫との結婚に固執のはかつて殺した敵の愛妾・玉梓の呪詛によるものであったり、実際には伏姫は八房と肉体関係は持たず、それを証明するために割腹までしていたりと、改変が見られます。

やはり日本の江戸時代の感覚ではフィックションとは言え、「人間の娘と犬の子が英雄になりました」というのは書きづらかった、ということでしょうか?
しかし安倍晴明が狐の子であるという「信太妻」などは浄瑠璃・歌舞伎などでも人気の演目だったはず。また蛇婿英雄出生譚も普通に民間で語られていた。
「犬」が微妙に感じられるのは、それが家畜であり身近過ぎるというものあると思います。神秘性という意味では他の野生動物に明らかに劣る。その上、去勢などしなていない時代なら犬の交尾なども普通に目につきますから、生々しさもあります。
その辺が、滝沢馬琴が「直接的に伏姫と八房との子どもという書き方はしたくないなあ・・・」と思った原因ではないかと思います。どうでしょうか?

因みに、中国の本家犬祖神話=文献資料における犬「盤[夸瓜]」はただの犬ではありません。帝コクの王宮にいたある老婦人の耳から生じたという神秘的?というか気持ち悪い?発生をしています。
神聖性を感じられるかどうかは感覚的な問題だと思いますが、ただモノでないというのは確実です。

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例話「盤[夸瓜]」は『後漢書』「南蛮西南夷列伝」を訳出したものだということですが、内容は上記リンク『捜神記』とほぼ同じ。解説もしていますので今回は割愛します。

後段、次のような興味深い記述があります。
「天命が異なっているのだから、待遇するのにも常とは異なる法により、耕作するにも商売するにも、関所の通行証もなく、税をかけることもない。邑に君長がいて、みな印綬を賜う」。
この部分『捜神記』にもほぼ同じの内容がありますが、要するに「村長は朝廷で認定しているけれど、自由にさせてます」ということです。
中国漢民族の少数民族に対する伝統的な態度は本来こういう感じだったのではないかと思います。

例話末尾にその領域が挙げられています。梁州・漢中・巴・蜀・武陵・長沙・盧江郡。
湖北省・湖南省から四川省成都あたりまで。非常に広いですが、あくまで長江中流〜上流域。四川省西部や貴州省・雲南省南部は含まれていない、とも読み取れます。
実際の現代犬祖神話が採集される地域も似たようなものでしょうか?いや、そんなに固定的ではないか?